「血管の異常収縮」ってなに?

なぎら

今日はよろしくお願いします。

小林

遠いところありがとうございます。今日は宜しくお願い致します。

なぎら

なにぶんにも全くわからないもので、いろいろ聞いてみたいと思っていますけど、動悸とか狭心症とか、心臓がドキドキしたり、ギュッとしたり。そんな経験、私にもありまして、小林先生がその原因を突き止めたって聞いたんですけど、いったい体で何が起きているんですか?

小林

はい、それは「血管の異常収縮」という現象が起きている可能性があります。医学用語では、血管攣縮(スパズム)と呼ばれてまして、読んで字のごとく、血管が痙攣して縮んでしまう現象です。
誰にでも前触れもなく血管がギュっと収縮して血流を塞き止めてしまうわけですから、心臓の血管で起こると心筋梗塞や狭心症、脳の血管で起こると脳梗塞になってしまいます。
ほかにも動悸、胸の痛み、不整脈、頭痛、めまいといった症状、さらに難治性高血圧、肩こり、むくみ、冷え、疲労感などを引き起こしている可能性もあります。

血管の異常収縮が関わる病気・症状
血管の異常収縮により危険な状態になった脳

さまざまな病気や症状の原因
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血管の異常収縮かも!?
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以下のような症状に当てはまる場合、もしかしたら、血管の異常収縮が関係しているかもしれません。

※ 1つでも当てはまる症状があったら、
注意が必要です。※

なぎら

えー怖いじゃないですか。

小林

はい。我々医者もこの人にどうしてこんなことが起こるのかがわからないのです。我が国では、突然死が年間約6万人※1 、そのうち9割以上の原因が血管病による突然死です。つまり年間5万人以上の方が血管病によって命を落としているのです。

血管病による死亡者数は約9割

なぎら

そんなに多いんですか…。

小林

私はもともと循環器内科で、救急救命の現場でも働いていました。毎日のように、患者さんが心肺停止状態で運ばれてきて、そのまま亡くなることも。それまで元気に働いていた人が、前触れもなく亡くなってしまうのです。
我々医者は、その患者さんに血管の異常収縮が起きていることはわかるのですが、救う手立てがなくどうすることもできないんです。ちょっとこの写真を見てください。

血管の異常収縮により危険な状態になった脳

なぎら

何の写真ですか、これは?

小林

これは人間の脳の血管造影写真です。右脳の血管が映っている状態です。実は、くも膜下出血を起こした患者さんは、たとえ手術が成功したとしても、1週間から10日後に、高頻度に血管の異常収縮が起こることがわかっています。
そして、このケースでは残念なことに1週間後に右脳の血管全体に血管の異常収縮が起きてしまったのです。脳梗塞を起こしかねない危険な状態です。

血管の異常収縮により危険な状態になった脳
血管の異常収縮により危険な状態になった脳

なぎら

これ右の脳の血管のほとんどじゃないですか!?

小林

そうなんです。血管の異常収縮の怖さは「誰にでもいつでも起こりうること」、そして、それが強力に広範囲で起こる場合や部分的に血管がギュッと収縮することで、「命に関わるような病気や症状を引き起こすこと」なのです。
しかも、そのメカニズムがわからず、原因不明だったので、長年、治療方法のない難病として扱われてきました。

なぎら

それを小林先生が突き止めたんですか?

小林

はい。血管の異常収縮で突然死するような理不尽な死を撲滅したいとの思いから、医者から研究の道に進んだのが1985年頃。
そして、15年の歳月がかかりましたが、研究チームみんなのあきらめない気持ちと不屈の努力のおかげで、2000年に、世界で初めて血管の異常収縮のメカニズムを解明することに成功したのです。

なぎら

小林先生たちが世界で初めてだったんですか!?

小林

はい、そうなります。実際に我々の研究成果は、循環器内科の世界でとても権威のある医学雑誌『サーキュレーションリサーチ』に掲載され、その編集者が特別に紹介するほどの評価を受けました。
これは本当に優れた研究に対して行われることとして知られているので、大変名誉あることと受けとめています。

なぎら

結局、なにが原因だったんですか?

小林

血管の異常収縮を引き起こしている原因物質は、SPC(スフィンゴシル・ホスホリル・コリン)という脂質の一種でした。このSPCが体の中でつくられ、増加することにより、血管が異常な収縮を起こしてしまうのです。
そして、このSPCの怖さは、我々人間の体を構成している細胞の細胞膜に存在するスフィンゴミエリンという脂質から簡単に作られてしまうことです。
つまり、誰にでも、体のどこにでも、なぎらさんの体にも当然あるものですから、ある意味では、血管の異常収縮がいつでも誰にでも起こることを科学的に立証してしまったと言えるかもしれません。

小林誠教授となぎら健壱さんの対談風景

なぎら

私の体にもすでに、SPCっていうのがあるんですか?

小林

はい。実際に、モデル動物の脳血管にSPCを投与した結果、SPCを1回投与しただけで2時間もの長い間、広範囲で著明な血管の異常収縮が見られました。
それから、くも膜下出血の患者さんの髄液も検査したのですが、やはりSPCの量が多くなっていることがわかりました。くも膜下出血後に異常収縮が高頻度に起こるのは、SPCが増えているからだったんです。

なぎら

それは、何とかならないんですか?

小林

我々研究チームもメカニズムがわかったならば、それを抑えるものを解明しなければならないということで、特効薬成分の探索にとりかかりました。その結果、2002年、血管の異常収縮を抑制できる物質を突き止めたのです。
それは、意外にも薬品成分ではなく食品として知られる、魚油のEPA(エイコサペンタエン酸)だったのです。